Mamiko Kasai Photographs

2014年11月26日水曜日

「エゾ鹿猟」


エゾ鹿猟

 

 
写真・文 笠井真美子  Photo and text by  Mamiko Kasai
                                                                               201212月、20131月 撮影
 
冬のエゾ鹿猟に同行取材した。
北海道では近年、エゾ鹿の生息数が増加、農林業被害や生態系保全への対策が急務とされてきた。狩猟者は個体数管理・生態系保全の役割も担っている。
獲物を自然の恵みとしてその命を敬い、食す目的で狩りをする狩猟者に同行した。
そうした狩猟者は野生の命と向き合う最前線にいると感じた。
 
 
 
 
 
 12月~1月初旬のエゾ鹿の毛色は枯れ木に同化して非常に見えづらい。肉眼で林の中にいる100m先の鹿を探すのは素人には至難の業。狩猟経験を積むと次第に見えてくるという。撮影は日没の少し前。狩猟可能な時間帯は、危険を避けるため日の出後から日没前までと鳥獣法で定められている。




 

12月、忍び猟でエゾ鹿を探す狩猟者。忍び猟はエゾ鹿の狩猟法の一つ。鹿の生息地に入っていき鹿の生態・行動、地形・天候をよみながら手掛かりを元に忍びながら探す。


 
 
 
 
 生息密度の高い場所には鹿道ができている。
鹿が行き来した足跡で踏み固められている。
 
 

 
 
  
 
エゾ鹿が食べた後の笹の葉。
 
 
 
 
 
 
地面に重しをかけたような楕円型は鹿が休んでいた寝跡。天気の良い時は下が見渡せる日当たりの良い尾根で休むこともある。
人が尾根に上がる手前で鹿の「ピー!」という甲高い鳴き声が突然響いた。人の姿を上から見て仲間に知らせる時に鳴く警戒鳴きだった。
 
 
 
 
 
 
 川縁の林にいた若いオオワシ。
エゾ鹿の生息数が多い場所では猛禽類を見かけることも多い。鳥類はエゾ鹿の残滓にありつくことを狙っている。
古くからカラスは狩猟者に獲物のいる場所を道案内するとも言われている。先ほどの寝跡の手前で鹿に逃げられるまではカラスが近くで鳴きながらついてきているのを確かに感じていた。
 
 
 

 
 

山中を車で移動中、崖の斜面に4,5頭の鹿の群れを発見。すぐさま車から降りて狙う。銃は散弾銃(バラ弾ではなく一発弾を装填)。


 
 
 
 
 
 首に一発で仕留め、倒れこんで即死した直後。
    一発首撃ちは苦しませずに即死させる理想的な撃ち方。
3才くらいのメスだった。
 
 
 
 
 
 
狩猟者登録バッジと鹿猟に使われる銃弾。
 
弾頭がプラスチックで覆われている散弾銃の一発弾(サボットスラッグ)と中央はライフル銃の弾。ライフル銃は散弾銃の所持実績が10年以上経たないと所持できない。
命を獲る弾は一発に重みがある。
 
 
 
 
 
 
一日の猟が終わる間際の日没直前、山道を鹿が横切った。メス2、3頭とオス1頭の群れだった。林の中で一旦とまった2頭が仕留められた。
鹿は夜行性で夜間に採餌する。日没と日の出前後は鹿が移動する時間帯のため目撃しやすい。
 
 


 
 
 一頭は7,8才のオスだった。薄暗くなった林の中から車の近くまで鹿を運ぶ。
一日自然の中に身をおき、狩猟という古来からの人の営みに随行していると、食べるために獲るということはごく自然な行為だと思えた。





 
あっという間に日が暮れ、車のライトで照らしての解体作業。
鹿はこの世に残した体の全てを捧げてくれている。あとは丁寧に解体し、心からその命に感謝して肉を頂けば鹿の魂も納得して天に昇っていくだろう。内臓を抜き出され皮を剥がれても、エゾ鹿はどんな姿になっても美しかった。






 
12月。狩猟歴32年の熟練猟師が仕留めたオス鹿。ライフル銃で首撃ち一発で仕留め、獲った直後に血抜き済み。猟場の近くに解体小屋があり一人で解体処理をしている。この日は若手ハンターらが見学。皮を剥ぐと鹿の身体から湯気が立ち上る。
 
 

 

背中の皮を剥ぐ。始まりからわずか15分程で処理が終わった。
鮮やかな手さばき。短時間での解体は熟練ゆえのこと。


 
 
 
 
 解体したエゾ鹿肉は低温の保管庫で熟成させる。
1週間ほど熟成させると旨味が増す。
 
 
 
 
 
 
 自ら獲ったエゾ鹿のヒレ肉をステーキにしてふるまってくれた。
美味しい肉にする秘訣は、撃ち方、血抜き、解体処理、熟成度合いまで、その行程のどれか一つ悪くても味落ちの原因になるという。熟達された技による鹿肉は全く臭みがない。
肉質は鹿が食べていたものによっても左右される。

 
 
 
 
 
丁寧に調理され、鹿肉の風味と滋味溢れる味わいが口の中に広がっていく。
エゾ鹿は初冬から冬にかけて旬である。

 
 
 
 
 
 鹿が行き来した雪野原。全て鹿の足跡。忍び猟同行中に撮影。
 
 
 
狩りの場に行けば、いにしえから続く人と動物の関係―食べるために撃つ・撃たれる―という自然そのままの関係に戻る。そうした関係も人と動物の歴史の中の一つだと改めて思わされた。
深い山の中、数人で猟をしていると仲間の連帯感も生まれ、人同士のつながりも実感させられる。
近年、狩猟者が減少し高齢化が進んでいる。ベテランから若手へ狩猟の技術や智恵の継承が必要とされている。
 
(狩猟をするには狩猟免許と猟銃所持許可の取得に併せ都道府県での狩猟者登録が必要)
 

 
 Copyright (C)Mamiko Kasai All rights reserved
初出:電子雑誌Lapiz 2013年

「エゾ鹿猟」再掲載にあたって


ブログを新設しました。
2012年12月~2013年1月に撮影し2013年、電子雑誌に掲載した「エゾ鹿猟」の
写真と文をこちらに再掲載します。

 

再掲載にあたって

エゾシカの歴史

 

北海道では縄文時代から開拓以前までエゾシカと共生関係を維持してきた。

それが崩れていったのは明治期に始まる。政府は開拓資金調達のためにエゾシカを大量に乱獲。毛皮や角を輸出して外貨を稼いだ。記録的な豪雪も追い打ちとなりエゾシカは絶滅寸前に。その後、禁猟と乱獲が繰り返された。

ここ30年間ではエゾ鹿が急増。その理由として、天敵であったオオカミの絶滅、越冬場所となる植林地と餌場となる農耕地の拡大、ハンター数の減少、暖冬傾向で越冬地の積雪量減少による生存率の高さ、などがあげられている。

平成25年度の推定生息数は道内全体で約56万頭。年間農林業被害額は約50億円。生態系の破壊や交通事故も多発し社会問題とされている。
 
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ただ個体数管理のために駆除して捨ててしまうのはあまりにもいたたまれないと思い続けていた。
年間捕獲数は約10万頭。その内、食肉としての処理頭数は1割程度にとどまり、残りはほとんど廃棄となっている。
自然の恵みである資源をもっと有効活用する意識が日常的に高まっていかないだろうかと思う。

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猟に同行しあらためて思うこと


自分は毎日どれだけの命に支えられて生きているだろう
狩猟者が仕留める狩猟動物も、食料品店で購入するパックの魚や肉も、飲食店で提供される食材も、野菜も全て同じように命に変わりない。
狩猟を通していかに自分の生は他の生き物に支えられているだろうかと、そこにどれだけ感謝の念をもって一時一時を過ごしているだろうかと自らに問わざるを得ない。